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住民票申請の本人確認手段をめぐる訴訟の判決について

住民票申請の本人確認手段をめぐる訴訟について、地方裁判所の判決が12/8に言い渡されました。主要な争点について棄却となり当社の主張は地裁においては認められませんでした。

判決文に対する当社の所感をこのnoteにてお伝えさせていただきます。
この訴訟において最終的に議論されていたのは下記2点です。

  • 総務省がおこなった省令改正がデジタル手続法の委任の範囲を超えた違法のものかどうか。

  • 本人確認方式の安全性

省令改正は違法か?

訴訟を提起した時点では省令改正はおこなわれておらず、総務省が当社が採用していた本人確認方式は認められないとする「技術的助言」を全国に通知した、という状況でした。この時点では法的には本人確認方式は自治体が判断できる状態でありながら、実質的には国がこの技術的助言によって自治体の動きを牽制し、拘束するものだったと解釈しています。自治体には「この方式は危険なので採用してはならない。この部分は自治体が判断してよい部分ではない。」と通知しましたが、法令には「自治体が判断できる」と明記されており、当社はその部分で総務省の主張(技術的助言)はおかしい、として司法の判断を仰いだ格好です。

そして2021年9月に省令改正がおこなわれ、法的に明確に自治体が本人確認方式を判断する権限が削除されました。つまり、総務省は以前の法令の状態では、技術的助言で通知した内容には無理があったと判断したためと考えるのが妥当だと思います。省令改正前の状態では「技術的助言は適法でない可能性が高い。であれば、」ということで総務省自らの主張を通すために省令改正がおこなわれた、ということになります。民間と民間の訴訟では考えられないことですが、争点となっていたルール(法令)を争っている本人が変更できるということ自体が常識的にはおかしな話であり、また、総務省自身が自らの技術的助言の違法性を認めたものだと捉えています。

結果的にこの省令改正によって争点は技術的助言が適法なものか?というところから、この省令改正、おこなってよいのか?というところに移りました。最初に提訴する時点で、総務省のこの動きは想定しており、もし省令改正をおこなうようなことがあればそれは法律の委任の範囲を超える、と釘を刺す主張を盛り込んでいました。したがって当社としては当初の考え通り、法律(デジタル手続法)の委任の範囲を超えている、という主張をおこないました。

今回の判決では「委任の範囲を超えていない」というのが地裁の判断でした。地裁は、委任の範囲を超えるかどうかは省令が「合理的かどうか」だと示しており、この判断基準の示し方はそもそも非常に曖昧だと感じています。行政が省令によって制御できる力が強くなりすぎる懸念があるからです。その上で、合理的かどうかの判断軸として「JPKI以外は十分な安全性が確保できないのでNG。よって省令改正は違法ではない。」という判断だと解釈しています。となると、やはり最大の争点は安全性になります。

安全性

今回のサービスはオンラインで住民票を申請し、郵送で受け取ることができるというものです。安全性として最も重要な観点は、「不正に他人の住民票を取得できるリスクがあるか?」という点であり「不正に申請できるか?」ではないと考えています。

不正に他人の住民票を取得できないようにするための防波堤として本人確認があります。当然ながらこの本人確認は重要な役割を担っており、JPKI(マイナンバーカードを使った公的個人認証)は高い精度でオンライン申請における本人確認をおこなうことができる方式だと言えます。もちろん、カードを紛失して署名用パスコードを当てられたら(あるいはパスコードがカードと一緒に保管されてたりしたら)不正に申請されるリスクはゼロではありませんが、現状考えられる方式としては強度の高い方式であることは間違いないと言えます。

今回の顔認証という方式も、一定の強度がありつつ、不正に申請されるリスクはゼロではないと思います。このことは裁判中の尋問でもお答えした通りで判決文にも記載されています。その上で、その尋問の中でお答えした最も重要な部分として「住民票を不正に取得できるのか?」という観点を挙げました。このサービスでは住民票は住民票に記載されている住所にしか郵送しないというルールで運用されていました。

この運用も併せて考えた場合に、果たして本当に不正取得できるリスクが無視できないほどあると言えるのか?という問いかけには、国からも反論はなく、判決文にも応答する内容はありませんでした。民間企業と自治体が創意工夫を凝らして、より便利で、かつ、実質的に安全に提供できるサービスを考案し、実践しようとする動きに規制をかけるという国の動きの正当性を検証するという今回の裁判において、地裁の判決ではこの安全性が前述のとおり適法かどうかの境目になっているため、この点についての応答がないのは判決として不完全だと感じており、もう少し踏み込んで司法の判断を確認したいと思う点でした。

今後について

控訴については現在検討中であり、期限である12/22までに決定してお伝えさせていただこうと考えています。

株式会社Bot Express
代表取締役
中嶋 一樹


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