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橋下徹氏・代表中嶋によるGovTech対談。地方から日本の「めんどくさい」をなくした話

1月5日、行政デジタル改革共創会議(デッカイギ)において、元大阪府知事・大阪市長 橋下徹氏とBot Express 代表中嶋が、【地方から日本の「めんどくさい」をなくした話。】というタイトルで対談を行いました。当日の映像と書き起こしレポートをお届けします。

元大阪府知事・大阪市長 橋下 徹様
1969年、東京都渋谷区生まれ。大阪府立北野高等学校(在学中に全国高校ラグビー大会に出場、西日本代表、日本代表候補)、早稲田大学政治経済学部卒業同年に司法試験合格。1997年に弁護士登録、翌年1998年には橋下綜合法律事務所を開設。「行列のできる法律相談所」(日本テレビ系)などテレビ番組に多数出演後、2008年2月、当時最年少であった38歳で大阪府知事に就任する。2009年には世界経済フォーラム(ダボス会議)のYoung Global Leadersの1人に選出された。2011年大阪市長に就任。知事経験者が政令市長に就任したのは日本史上初。2015年12月大阪市長任期満了をもって政界を引退した。現在は、国内外で政治経済の取材を行いつつ、テレビ番組出演や講演、執筆活 動等多方面で活動中。
株式会社Bot Express 代表取締役 中嶋一樹
Salesforce、日本オラクル等でエバンジェリストとしてキャリアを重ね、前職のLINE株式会社在籍時に日本初のLINEを使った行政サービスとなる粗大ごみ申請(福岡市)の仕組みを実現。 2019年に株式会社Bot Expressを創業。「お客様は住民、自治体はパートナー」という理念のもと、共鳴していただけるパートナーと最高の住民サービスを提供することをミッションとして事業を推進。趣味はキャンプ。

<動画>

1. 「スマホ市役所」で自治体革命が始まっている

中嶋:
先ほどスマホ市役所の3つの自治体事例を見ていただきましたが、率直に感想をお聞かせいただけますか。

橋下氏:
自治体革命ですね。僕は2015年に大阪市長を辞めましたが、こんな話が2011年にあれば、もうちょっと政治家生命を延ばしていたかもしれないです。笑 そして、河野大臣にこれらの話聞いてもらったら、泣いて喜ぶと思いますよ。

いま、国全体で取り組んでいるのはマイナンバーカードと健康保険証の紐付け。国はここまでしか言えないんですよね。でも本来は、住民サービスというのは、今日発表があったような、トータルの住民サービスを変えて行くことです。住民の皆さんにしっかり理解していただくと、DX化の必要性をすごく感じてもらえると思います。

住民サービスの入り口部分には、やはりマイナンバーカードが必要になる。住民サービスをDXして、住民の生活を豊かにするためには、ワンピースとして「マイナンバーカード」が必要です。河野大臣はじめデジタル庁のみなさんは、住民サービスDX化の全体像を説明していくということがもっと必要なのかなと感じました。これが伝われば、一気に自治体のDX化が進むと思います。

2. 国やデジタル庁と基礎自治体、民間企業の役割分担

中嶋:
私も、政府や国が語る時というのは、やはり大きな絵を描いて、これからどういう未来になっていくのかというのを語っていく必要があると考えています。同時に、具体的に例示を出して行くのがすごく重要で、これについてはやはり民間企業や市町村というのが、先陣を切って、その事例というのをつくっていくべきなんだろうなと思います。今日、発表いただいた3自治体の事例というのは、まさに日本の変革をリードするような事例になっているんじゃないかなというふうに思っています。

デジタル庁と地方自治体の役割の違いみたいなところもお話ができればと思うんですが、例えば、PUSH型の仕組みについては国としても大号令をかけているわけです。ただそれを実際にやっていくのは、住民と接点がある自治体の皆様です。我々のミッションでもありますが、自治体の皆様に新しい事例を先んじて見せていき、「こんなやり方があったのか」というのを知っていただければ良いなと思います。

参考:総社市でのマイナンバーカードを用いたPUSH型サービス(スマホ市役所事例BOOKより)

橋下氏:
僕は国政政党の代表もやっていたので、国政と地方自治体の業務の両方を見ながら政治行政をやっていたんですけれども、国(政府)が大号令をかけるのは、基幹業務など国全体で統一してやらなきゃいけないところです。

でも、地方の自治体業務というのは、国が見えているところの何100倍、何万倍ぐらいのサービス業務があります。能力の優劣とか、そういう問題じゃなく、役割分担だと思います。ところが今、デジタル庁も一生懸命頑張っていますが、他の省庁などは自治体の業務の細かなところを見ることができていない。国が全部を設計するのは無理です。

菅義偉さんや平井卓也さんがデジタル大臣のときにもよく議論しましたが、20種類くらいの基幹業務では統一的なプラットフォームをつくり、ガバメントクラウドでいったらいいと思いますが、そのほかのところについては、自治体の方でカスタマイズしてもらうべき、というような話をしていたら、今日はまさにドンピシャの話が出てきました。

自治体職員の皆さんは優秀なので、使いやすいプラットフォームがあったら、どんどんどんどんカスタマイズしていって業務を効率化することが可能です。給付金を1日で支給するなんて本当にすごいことです。コロナの際の特別給付金は大変だったみたいなので、それが今、こんな風に変わっているというのは、本当に革命的だなと思いますね。

国と地方の役割分担をしっかりやって、国が基幹的な部分で統一的な設計をしなきゃいけないところはやり、そのほかの細かい行政サービスについては、設計を自治体に任せてそれぞれカスタマイズしていく。こういうふうに進めていくのが、僕はベストだと思います。

参考:庄内町での1日で給付した給付金申請(スマホ市役所事例BOOKより)

中嶋:
まさに今おっしゃっていただいたような、全国で決まっている共通の手続というのは、あえて自治体がやる必要というのはなかったと思うんですが、実際にはそうなっていた。それを統合していこうというのは、合理的な話なんだろうと思っています。

マイナポータルやデジタルガバメントクラウドみたいなものは、共通する部分に関しての基盤やサービスの提供を考えられているのかなと思っていて、我々としては、その外にあるというか、自治体それぞれの手続の部分は依然として自治体と民間企業でタッグを組んでやっていくべきところで、きれいな棲み分けのポイントなのかなと考えています

3. 優しい社会を実現する「PUSH型の行政サービス」

橋下氏:
僕が知事・市長やっていたときの反省点ですが「大号令のかけ方が冷たい」というふうに言われていました。デジタル化と言うと、効率化とか人員削減とか人件費削減とか、いまだにそう思われていますが、実際には「豊かな暮らし」のために必要なことです。「申請主義」ではなく「PUSH型」にしていって暮らしを良くするというメッセージの出し方が非常に重要だなと思っています。

いかに優しい社会をつくっていくのか、サービスを豊かにしていくのかというところのメッセージの仕方というのも重要なのかなと。若干河野さんのメッセージも冷たい感じがして、僕はシンパシーを感じるんですが、世間にはちょっと違うなと思われがちなんですよね。温かいメッセージが絶対必要だと思います。

デジタル化によって、住民サービスが豊かになることは間違いないです。今日の庄内町・常滑市・総社市の事例を聞いていてもそうだなと。未来が明るく見えました。給付金が1日で配れるとか避難所にQRコードでチェックインするとか、本当に10年前にあったら、僕ももっといろんなことができたのにと思います。

参考:常滑市での避難所チェックイン(スマホ市役所事例BOOKより)

4. デジタル化の理想と現実。セキュリティとの向き合い方

中嶋:
総社市の給付金をPUSHで届ける事例ですが、総社市の片岡市長は「定額給付金は年内にできる限り届け、温かいお正月を迎えてほしい」という思いを持たれて今回の仕組み採用されました。まさに住民の方々に豊かな生活を提供するためのデジタルという使い方になっているんだろうなと思っています。

ただし、PUSH型は理想系だと語られているものの、実現するのは結構難しい。なぜかというと、住民基本台帳など自治体のシステムは、自治体のシステムの中の中の方に入っています。そのシステムと住民とが接点を持てるような仕組みに今はなっていない。

直接的に、オンラインサービスとして住民サービスを提供しているシステムと住民基本台帳のシステムを組み込めたら、対象となる住民の方をオンラインシステム上で特定して、そのまま案内を送るようなことができたりしますが、現在は分離されています。その部分で、今は職員の方々には御負担をおかけしているというのが、今の現状、正直なところです。

橋下氏:
河野さんや平井さん菅さんともこれまでさんざん議論してきましたが、住基ネットワークは、歴史的な経緯や個人情報との兼ね合いで、隔絶したところに押し留められています。一切情報が漏れないようにとか、閲覧不正に閲覧されないようにとか、そういう考えがベースなので、思想を抜本的に転換し、活用していくということを考えないといけない部分です。

転換に対して、反対する人にもそれなりの反対する理由がありますから、そこを突破しようと思うと、僕がやったみたいな冷たいメッセージを伴う北風政策だとうまく進まないので、太陽政策で行くしかないのかなと思います。「やはりこれは活用した方がいい」という風に、いかに転換できるかだと思います。

中嶋:
日本は、セキュリティーの議論が非常に強く行われる傾向があります。本来はセキュリティーの専門家が、ユーザビリティーも同時に検討すれば、バランスのとれた政策や実装になると思うんですが、セキュリティーに特化してすごくアカデミックな議論になってしまうことがあるんですよね。

そうなってくると、ほぼ実質的には使えないというようなシステムになってしまう。当然セキュリティーというのは必ず必要になってくるので、その辺のバランスのとれたシステムになっていくということが今後、日本のシステムで多分必要なんだろうなと思います

橋下氏:
行政は、専門的な審議会においてその分野の専門家ばかりを呼んできてしまいます。例えばコロナ対策のときも、最初は感染症の専門家だけを呼んでいました。有識者会議などでは、社会経済活動を止めろ止めろの大合唱となった。そこに、経済学者とか社会学者とか、異なる分野の人たちに参加してもらうことで、社会経済活動を止めるだけじゃダメだろうという話になると思うんです。

自治体がサービスを提供していく時にも必ずプライバシーとか個人情報の問題にぶつかると思います。セキュリティーと利便性、両者を兼ね合わせた形で、さまざまな分野の専門家を呼んで議論をし、結論を出してもらいたいなと思います

5. 住民利用率の高さのポイントは「住民からのフィードバック」

中嶋:
議論をして、やった結果というのも、きちんと追って行くべきだなと思います。例えば安全性だけを追求した結果、利用率が下がっている、あるいは満足度が下がっているということだと政策として意味がなくなってしまいます。

橋下氏:
自治体のデジタル化、国のデジタル化、その話は多いですね。作っただけで誰も使っていないという。

中嶋:
その部分については、今日発表いただいた3自治体の方々のスライドに全て入っていましたが「住民からのフィードバック・満足度」というのが全て計測されていますが、すごく重要なポイントです。自分たちが税金をかけて作って提供したものが正しかったのかどうか、その施策が正しかったのかどうかというのは、やはり住民が判断すべきだと思うんですね。

そうなってくると、やはり住民からのフィードバックを必ずとる。もしかしたら結構耳が痛いような話もあるかもしれないけれども、それは真摯に受け止めようというのが基本的なスタンスとしてあるべきなんだろうなというふうに思っています。

橋下氏:
スタートアップでされている皆さんは当然のように誰もやっていないことにチャレンジするわけですから、フィードバックを受けてそれで改善していこうと、アジャイル的な発想になっていると思います。

今日の3自治体についても、チャレンジされているんですよね。多くの自治体がフィードバックをあまり意識しないというのは、事前に100%完璧なものを目指して検証し、ちょっとでもリスクがあるとやらない傾向にある。100%大丈夫だと思ってリリースするものですから、フィードバックとか気にしないんですよね。そうすると、結局住民に使われないようになる。でも、これでは意味がないわけで、今日発表の3自治体の皆さんは、公開した後に「住民の皆さんはどう感じているのだろう」と気になるということは、出だしの段階で100% 絶対大丈夫だ、というよりも、もしかすると「これは受け入れられないかもしれない」という不安を持ちながら公開したんじゃないなかと。ここがすごく重要です

これから全国の自治体の職員の皆さんが、DXを進めようと思った時に、最初から100%完璧なものを作ってから出すんじゃなくて、後で改善したらいいじゃないかという意識を持っていただきたい。人命にかかわるようなことはもちろん100%完璧なものを追求していかなきゃいけないけれども、そうじゃない部分に関しては、最初にリリースしてから後で変えていこうと。これも最後は、自治体のトップがリスクを受け入れる。そのような号令をかけてあげないと、職員の方としても、ちょっとしたミスで追及を受けるとなれば、どうしても萎縮してしまいます。これからは、まずはやってみて、後からフィードバックをちゃんと反映すればいいじゃないかという意識を持つ役所組織にすることも、DX化には必要だなと感じました。

6. デジタル化で可視化されはじめた「住民の声」

中嶋:
フィードバックを取っていただくと、もう一ついいことがあります。これまで、自治体の方々に住民の声が届く場合は、クレームであることが多かったと思います。それを恐れて、なかなかチャレンジできないというような、チャレンジの障壁になっていた部分があると思っています。フィードバックをとっていただくと、もちろん厳しい声をいただくときもあるんですけれども、ありがとうの声が多いんですよ。

自治体職員の皆さんは、「町を良くしたい」と思って入庁された方が多いと思うんですね。そんな中で、住民の方々から「これを待っていた」だとか「ありがとう」という声を聞けるというのは、やってよかったなあ、チャレンジしてよかった、と心の底から思える瞬間だと思うんですよね。自治体職員の方々が報われるためにも、やっぱりフィードバックというのは必ず取得してサービスを改善するというのはすごく重要なのかなという風に思います。

橋下氏:
100%の成功はないんでしょうけれども、自治体・行政サービスのDX化というのは、成功の余地・余白の部分がものすごく大きいので、やると感謝や満足の声がたくさん来ると思います。日本の公務員の皆さんは、いつもすごく真面目に、一生懸命仕事をしています。そんな中で、なかなか感謝の声が可視化されないんですよね。文句ばっかり可視化されて、感謝の声が可視化されるというのも、このDX化に付随する良いポイントです。

僕も大阪府知事の時、かなり公務員の皆さんと激烈で議論したし、厳しいことも言いましたけれども、大阪の教育無償化にしても何にしても、感謝の声とか満足の声というものが見えると、職員としてもものすごくモチベーション上がります。僕は、この自治体DXの話というのは、今まであんまり感謝の声とか、ありがとうという声が見えなかったところが見える、素晴らしい領域だなというふうに思っています。DXは、住民サービスを満足させることだけじゃなくて、自治体職員の皆さんのやる気というか、仕事に対する満足度もあげる、そういう話なのかなと思います

7. 住民サービスをもっと豊かにするデジタル化

中嶋:
今日本当は一番これを話したかった部分ですが「人口減少の前提にたった地方都市の戦略」というところを話したかったんですが、実はもう時間が来てしまいました。

橋下氏:
第二弾やりましょう。今日の参加者は自治体の職員の方が多いと聞いています。各首長は、個性豊かな人たちで、自治体職員の皆さんは大変だと思います。首長は選挙で選ばれているというところに、一つの正当性があって、職員の皆さんからすると、これはおかしいんじゃないかと思うところがあるかもわかりませんけれども、ここは首長と職員が一致団結してタッグを組んでDXを進めて、住民サービスを豊かにしてもらって、日本社会を明るい未来に導いてもらいたいなと思いますね。スマホ市役所は、本当に、自治体革命だなということを3事例を見ただけで思いましたので、ぜひ中嶋さん含めて、Bot Expressの皆さんで頑張ってもらいたいなと思います。

中嶋:
ありがとうございます。すごく温かい、かつ心強い言葉をいただいて、我々も多分今日は登板していただいた自治体の方々も、すごく何か今までやってきてよかったなという感覚だとか、これからもやっていこうというのをすごく、決意できるような機会になったんじゃないかなという風に思います。

橋下氏:
河野さんに言っておきます。こういう事例をどんどん発信していった方がいいと思います。マイナンバーカード便利だ!では伝わらないから。これをやるためにマイナンバーも必要ですよ、というような位置づけだと思います。

中嶋:
我々もぜひ今後も頑張っていきます。ということで、今日のセッションはこれで以上になります。橋下徹さんに今日は来ていただくことができ、私もすごくエキサイティングな時間を過ごすことができました。今日はどうも本当にありがとうございました。

8. 対談を終えての橋下氏コメント

今日のセッションで自治体革命が起こる熱を感じました。あとは個々人の熱量の部分です。民間企業と行政と首長とタッグを組めば、大きく自治体行政を良い方向に導けると思います。全国のやる気のある自治体・行政のみなさん、ぜひ頑張ってください。期待しています。

Bot Express代表取締役 中嶋一樹(左)、元大阪府知事・大阪市長 橋下徹氏(右)

Bot Expressは、「つくろう。愛される行政サービスを」をミッションに、GovTech Companyとして、住民利用率・満足度の高いサービスを提供し、共鳴するパートナー自治体と共にあるべき社会の実現を目指しています。

デッカイギで登壇いただいた3自治体およびGovTech Expressのパートナー自治体の皆様はチャレンジャーです。皆様のチャレンジを最大限成功に導くために、Bot Expressはこれからもアップデートを続けてまいります。

橋下さん、セッションに参加いただいた自治体職員の皆様、本レポートをご覧いただいた皆様、ありがとうございました。

<関連情報>
デッカイギでの自治体セッションレポート


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