総務大臣の「LINEで住民票請求」へのコメントについて

高市早苗総務大臣より、当社で提供している「LINEで住民票請求」のサービスについてコメントされたようです。

このコメントを受け、当社としての考え方を率直に書いておこうと思います。

まず、タイミングについて。

当社は自治体など行政組織のミッションは国民・住民に益する活動をおこなうことだと考えています。当社の契約上の顧客は自治体はじめ官公庁ですが、実際の顧客は住民の皆様です。法令というのは法治国家に不可欠でありつつも、あくまでも国民の安全と利益を実現するためのフレームワークだと思います。

当社で提供しているLINEで住民票申請の機能は、実質的にほとんどの住民の皆様が今すぐに利用できる電子的な行政窓口機能であることを重要視しています。もちろん、十分なセキュリテイを確保した上で。逆に、同様の手続きについて現存する電子申請はマイナンバーカードおよびそのICチップを読み取るためのICカードリーダーが前提となっているため、実質的にほとんど利用されておらず、マイナンバーカードの普及率やICカードリーダーが非日常的なデバイスであることを鑑みると、ほとんどの住民が今すぐ利用できない仕組みです。これはマイナンバーカードという施策が良いが悪いかではなく、現状の普及率からみた今時点での客観的な事実です。

そして現在、コロナウィルスの影響で外出自粛が各所で要請され、いわゆる3密をできる限り発生させないために、ときに例外的な措置含め積極的に考えるべき状況だと思います。そんな中、このLINEで住民票申請の仕組みはもともとコロナ対策として開発されたものではありませんが、結果として役所窓口において人と人との接触を減らすことができる有効な一つの選択肢になっています。現状においては、当社のサービスに限らず、こういった仕組みを超法規的措置含め「どうやったら進められるのか」を検討するのが妥当な姿勢だと考えますが、少なくとも報道からは大臣のコメントはそのような建設的方向ではなく「なぜNGかを丁寧に説明する」とおっしゃっています。この状況にあってわざわざこのコメントを出された背景や、最も重要なポイントとして、この判断は誰に益するものなのか?がわからないと感じています。今、選択肢を減らす判断が誰の利益や安全性を確保することにつながるのか。この判断は国民の利益よりも、その方法論にプライオリティをおいた判断だと感じています。

次に法令について。

大臣は法律上の懸念を示されています。当社としては当然このサービスが法令に抵触するものだとは考えていません。このサービスの提供根拠になっている法令をお示ししておきたいと思います。

総務省関係法令に係る行政手続き等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則

第3条 この省令は、別表の上覧に掲げる法令の同表の下欄に掲げる規定に基づく手続き等について適用 する。
第4条 情報通信技術利用法第三条第一項の規定により電子情報処理組織を使用して申請等を行う者は、 行政機関等の定めるところにより、当該行政機関等の指定する電子計算機に備えられたファイルに記録す べき事項又は当該申請等を書面等により行うときに記載すべきこととされている事項を、同項に規定する 申請等をする者の使用に係る電子計算機から入力して、申請等を行わなければならない。
2 前項の規定により申請等を行う者は、入力する事項についての情報に電子署名を行い、当該電子署名 を行ったものを確認するために必要な事項を証する電子証明書と併せてこれを送信しなければならない。 ただし、行政機関等の指定する方法により当該申請等を行ったものを確認するための措置を講ずる場合は、 この限りではない。

ここでは、住民票の請求を電子申請する際には電子署名が基本的に必要とありますが、その一方で各自治体が別段の安全性確保措置をおこなう場合はその限りではないとされています。地方自治の精神から言っても妥当な解釈だと考えています。当社サービスにおいては後述の措置を自治体の方々と納得いくまでPoCでブラッシュアップし、共同で住民の皆様に提供しています。

最終的には法令に関する最終判断は裁判所になると思いますが、前述のとおり当社はいずれにしてもこだわるのは国民の利便性や安全性であって法令ではないと考えています。法令をベースにした妥当性議論に労力を要するよりも、あるべき姿をベースに実態にそぐわない法令をあるべき形にアップデートする方が生産的な活動だと考えます。

最後にセキュリティについて。

論点となっているのは本人確認の妥当性です。当社サービスで実装しているのは、現在一部金融機関でも採用されているのと同様の本人確認書類の写真による提出、およびオプションとしてその本人確認書類の所有者本人が申請していることを検証するため、顔向きをランダムに指定して複数枚の顔写真を撮影して送信いただくという処理です。これらの一連の写真が本人と同一人物であるかどうかをAIが判定し、すべての申請レコードに対してAIによる本人確認結果を付加しつつ、人間の目でもダブルチェックできる仕組みとなっています。

現在住民票は多くの自治体で郵送請求が可能であり、その時に必要なのは同じく「本人確認書類のコピー」です。「安全性」という意味では、理論的に郵送請求と少なくとも同等以上であり、総務省の示している考え方では「郵送はザルでもいいがオンラインは電子署名一択」ということになり、求める認証強度の考え方に矛盾があるのは明らかです。ただし、当社では「安全性」は明らかにプライオリティであり、単純に「ここまでやったら法令上OK」というレベルで実装しているわけではありません。現状の郵送請求の強度にとらわれず、前述のように顔向き指定の複数枚写真撮影をおこなう機能や、住民票郵送先を本人確認書類または住民票登録住所に限定することで第三者による不正な住民票請求を防止するなど、法令をクリアしつつも技術的見地から十分な安全性を確保するよう対策しています。

民間のサービスで、金融のように極めてアセットが大きくリスクが大きいサービスであっても、電子証明書が必須、というようなサービスは日常の中で聞いたことがなく、現在総務省が求めているレベルは現実と乖離があるように思います。

当社では安全性は間違いなくプライオリティですが、ただその中で重要なのは、「セキュリティが高いだけ」というサービスには全く価値がないということです。つい最近報道のあった「セキュアゾーン」という仕組みはまさにこれに該当すると思います。

単純にセキュリティ強度が高い方式を実装するのは難しくありません。難しいのは利便性とバランスすることです。利便性をスポイルした、あるいは現実的な普及観測を軽視したセキュリティ議論はアカデミックに偏重してしまい、サービスとしてみたときにリスクもないけど価値もないものになってしまいます。現在住民票請求をはじめとした多くの手続きは事実上オンラインではほとんど使えないものになってしまっています。

これまでの行政が導入してきたITサービスにはしばしばこのような偏重が見られると考えています。当社はこれをあるべき姿にアップグレードしたい。安全性と利便性を高次元で両立するサービス。行政機関としてリスクがないサービスではなく、住民に益するサービス。当社ではピュアにこのビジョンを目指して、事業を推し進めていきます。

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