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【青森県むつ市】集約作業時間を100%削減。AIによる優先順位判定を組み込んだ災害対応報告システム

災害発生時、住民の安全を守るため、自治体には迅速かつ正確な被害情報の収集と対応が求められています。しかし、実際の災害発生時には、多くの情報が錯綜し、状況把握や優先順位の判断が難しくなるケースが少なくありません。

こうした課題を解消するため、青森県むつ市ではLINEや対話型Webフォームを活用して、各所属からの報告を集約する災害対応報告システムを導入しました。Excelによる手作業の集約を完全に廃止し、さらにAIを活用した対応優先順位の判定機能を組み込むことで、報告件数が多い状況でも迅速な判断を可能としています。


1. 自治体概要

人口:51,495人(令和7年1月31日現在)(むつ市HPより)
友だち登録者数:20,125人(2025年2月18日時点)
主な機能:セグメント配信、スポーツ施設予約など
LINE ID:@mutsu_city

2. 取り組み

むつ市では令和6年度より、各所属から防災部門に対して行う災害対応報告を、LINEまたは対話型Webフォームで受け付ける仕組みを導入しました。

対話型Webフォームは、Webブラウザから各種申請を受け付ける仕組み。
LINEを利用していない方でもWebブラウザから報告することができます。

一度報告した情報の更新も、LINEや対話型Webフォームから可能です。
各部署が報告すると、自動的に報告番号が通知されます。情報を更新する際は、この報告番号を選択することで、該当の報告を特定し、更新することができます。また、選択できる報告番号は、その部署が報告したものに限定する制御も行っています。

従来はExcelデータで報告していたため、各所属から提出された情報をコピー&ペーストで統合する作業が必要でした。また、一度報告した情報の更新を行うのも、1,000行以上のExcelデータの中から対象の行を探し出す必要があり、煩雑なものとなっていました。
しかし、この仕組みを導入したことにより、報告内容が自動的に集約されるとともに、更新も容易に行えるようになりました。

報告内容を集約したダッシュボード

3. 工夫

AI Optionを活用し、対応の優先順位を自動判定する仕組みを組み込みました。

むつ市では毎年図上訓練を実施しており、訓練時でさえ被害報告の件数は1,000件を超えていました。そのため、対応の優先順位を判断するのに時間がかかるという課題がありました。そこで、AIによる優先順位の一次判定を導入することで、迅速な意思決定を目指しました。

受信内容からAIが優先順位を判定

4. 結果

令和5年度の図上訓練においては、情報統括班の職員が訓練時間中ずっとExcelデータをコピー&ペーストし、情報を統合する作業に追われていました。訓練時間は3時間でしたが、実際の災害時には収束までこの作業が続く可能性がありました。

報告用Excelデータのサンプル

しかし、この仕組みを導入した令和6年度の図上訓練では集約作業が完全に無くなり、対応の優先順位判定などの重要な業務に集中できるようになりました。

5. むつ市様コメント

今回の手続きの企画と構築に携わった情報・DX戦略課及び防災安全課の4名にお話を伺いました。

職員の写真
左から、防災安全課の佐藤さん、情報・DX戦略課の鎌田さん、
情報・DX戦略課の蛭名(えびな)さん、防災安全課の瀧澤さん

-導入経緯

新倉:今回のシステム導入のきっかけを教えてください。
佐藤さん:令和4年度の大雨災害をきっかけに、災害対策本部の体制や図上訓練の内容を見直し、全庁から災害対応記録を収集することとしました。当初はExcelデータで収集していましたが、約60課分・合計1,000行以上を情報統括班(情報・DX戦略課)が手作業でコピー&ペーストしていたため、情報収集だけで手一杯でした。何らかの改善をしなければいけないと考えていたところ、情報・DX戦略課から今回のシステムの提案があり、とてもありがたかったです。

-効果

新倉:実際に図上訓練で使ってみた結果はいかがでしたか?
瀧澤さん:LINEでの報告方法について、全庁的な操作説明会は実施せず、マニュアル配布のみとしましたが、一部の職員から問合せがあった程度で、ほとんどの職員が問題なく利用できました。
鎌田さん:情報統括班としては、情報収集が非常に楽になりました。前回の図上訓練では、訓練時間中ずっとExcelデータのコピー&ペーストをしていましたが、その作業が完全に無くなりました。
蛭名さん:Excelで収集していたときは、各所属からの報告は30分に1回でしたが、今回のシステムではリアルタイムで情報が反映されるので、タイムラグが解消されたのも大きなメリットです。

実際の図上訓練の様子

新倉:AI Optionを活用した優先順位判定機能の効果については、いかがでしたか?
鎌田さん:前回は情報収集だけで手一杯で、優先順位の判断にまで手が回りませんでした。しかし、コピー&ペーストの作業が無くなり且つAIに一次判定をしてもらうことで、大きく改善されました。
蛭名さん:プロンプト(AIへの指示文)に優先順位ごとの具体例を追加する等の工夫を重ねた結果、判定精度が向上しました。今回は優先順位の一次判定に限定しましたが、人的被害・家屋被害等のカテゴリ選択にもAIを活用すれば、さらに職員の入力負担を減らせる可能性を感じています。

今回利用したプロンプト
今回利用したプロンプト

-今後の展望

新倉:次年度に向けて、さらに改善を予定していることや今後の展望があれば教えてください。
佐藤さん:今回は情報収集の部分を改善できました。今後は、収集した情報の活用方法を、さらに改善していきたいと考えています。
瀧澤さん:災害対策本部の事務局を設置してまだ2年目。今回の訓練の結果を踏まえ、3月までに体制を見直す予定です。
鎌田さん:今回は、本部員への報告はシステムから出力したExcelデータで行いましたが、将来的には本部員にもアカウントを発行し、ダッシュボードで情報を共有できるようにしたいですね。今後、避難者把握システムの導入も検討しており、LINEを活用した防災DXをさらに進めていく予定です。

6. さいごに

むつ市の取り組みは、情報の集約に追われる災害対応から、次のアクションを考えられる災害対応へという、大きな転換をもたらしました。

従来の手作業による集約から、LINEや対話型Webフォームによるリアルタイム集約へ。そして、AIを活用した優先順位の自動判定により、対応すべき事案を即座に把握できる仕組みを構築。これにより、職員が単なる集約作業に追われることなく、より本質的な対応判断に注力できるようになりました。

このシステムの構築には、情報・DX戦略課の鎌田さんをはじめとする職員の皆さまの尽力があり、私自身もその努力を間近で見てきました。導入の過程で苦労も多かったと思いますが、その成果が実を結んだことを、とても嬉しく思っています。

このように、GovTech Expressは、住民が利用する手続きだけでなく、自治体職員の業務改善にも効果をもたらす仕組みも構築することができます。
「この作業、時間かかっているんだよな・・・」というお悩みがありましたら、是非、担当のパートナーサクセスマネージャーまでご相談ください。

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